六月の半ばに、去年年末に別れた人からメールが届いた。「まだ忘れられない」
別れて以来、お互い忙しかったけど、稀にメールがくることがあって、当り障りの無い返事をしてた。

彼を好きではなくなったけど、彼が参加している劇団が好きでなくなったわけではなかったから、舞台を観に行ったのが悪かった。悪かったって言うのは失礼な話だけど。
私は、半年経って、向こうも気持ちの整理がついたんだなって勝手に解釈して、「舞台観にきて」という彼に「行くよ」と答えてしまったのが悪かった。
彼は、気持ちの整理なんかついていなかった。
整理できなくしたのは、もちろん私だ。

何で別れたのかといえば、時間的距離があまりにかけ離れているのが最大の原因。
私は土日が休みなのに、向こうは土日に重点をおいてバイトをしてた。土日だと長時間のシフトが多いから、それだけ収入が増えるわけだ。
彼が大変なのは、重々承知してた。役者を志して以来、常に背水の陣に立ってて、一寸先は闇状態。生活の中心というか、人生の中心が役者だったから、私がワガママを言って、土日休んでもらうなんて到底できっこなかった。1年以上付き合ってたからそれは理解してたし、彼もそう言ってた。役者のためなら私を犠牲にすることもあるって。
それでもがんばれた。気持ちがつながってれば、会えなくたって平気だって。

でもそうじゃなかった。
私を取り囲む環境は変化していくもので、会社のみんなと仲良くなれば、遊びにも行く。週末1人でぶらぶら買い物をするより、誰かと遊びに行ったほうが楽しいに決まってる。
向こうはストイックに稽古やバイトに明け暮れる中、私はいろんなとこに遊びに行った。

次第に疑問が湧いてくる。
「私の恋人って何?」
恋人でない人と遊びに行くほうが断然多いし、そっちのほうが断然楽しい。
たまに恋人に会っても、むこうは疲れてるから会話も弾まないし、何よりお金が無いからすることが限られる。
私は普通に社会人だから、収入もある。おいしいものも食べたいし、楽しいこともしたいけど、向こうの経済状況を考えると、どうしてもある程度ガマンしなくちゃならない。
会社の先輩とだったら、何でも出来ちゃうしどこでも行けちゃうのに。

私は聖人ではないから、思いがあればつながりあえるなんて、いつまでもいっていられなかった。

決定打は、お金だった。
お金がないから、ケータイ代も払えなくて、音信普通の日が続く。
或る日メールが来たかと思ったら、
「5万円貸して」
悲しくてしかたなかった。
恋愛とお金って、関係ないと思ってた。
でもそうじゃなかった。

ちょうど同じ頃、私の異動が決まり、ダメ同期と引継ぎをしていて、ストレスがめちゃめちゃたまってた。
それを話しても、「そんなこと言っちゃダメだ」って否定された。
私は説法を聞きたいんじゃない。話を聞いて欲しいだけなのに。

会っても楽しくない恋人より、
会って楽しい会社の先輩と遊ぶほうがずっと良かった。
いつしか、彼氏よりも先輩に会いたいって思うようになってた。
恋人の存在が、重荷だった。

それを本人に打ち明けたのが、12月22日。
涙も出なかった。
24日に舞台を観に行く約束をしてて、チケットも持ってたけど、まぁいいやって思ってた。
そしたら23日に電話かかってきて、「明日どうする
だって。
私もヘボいから断れなくて、観に行った。舞台の内容も、何を話したかも忘れた。
ただ、会社の先輩の話はしなかったのは覚えてる。
この時点で、というかそれよりも前から気持ちは先輩の方に向いてたのに、言えなかった。

今思うと、あの時言うべきだった。
先輩のことを言わずに「もう好きじゃない」って別れたから、彼は気持ちを整理することが出来なかったんだろうと思う。
「他の人が好き」と言うことで、彼を傷つけると思ってた。でも、言わないのはやさしさではなく、むしろ残酷だった。
たまに来るメールに普通に返事をするのも、残酷だったのかもしれない。

思い返せば大学時代、付き合ってた人にフラれた次の日、全く普通に接せられて、ものすごくつらかったことがあった。
普通にされるから、まだチャンスがあるのかもって期待しちゃった。本当はもうチャンスなんて無いのに。
私はその人にされたことを、全く同じように彼にしてしまったようだ。

メールの返事に悩んだ。
会って話をするべきか。
当時思ってたことを全部メールで語るべきか。
でも、会って話をするヒマなんかありえなかった。私は去年のようにヒマOLではないし、向こうはヒマがあったらバイトをしなければならない。
今更メールで別れる前の話をしても、戻らないものは戻らない。
だから、感情の全く無い返事をした。
「舞台観に行くべきじゃなかったね。今付き合ってる人いるんだ」

以来、メールは来ない。
私の返信は、正しかったのだろうか。
相手を思って何も語らないのと、
相手を思って事細かに語るのと、
どちらが本当に相手のためになるのだろう。

でも、申し訳ないけど彼にはチャンスはない。
ハンパなやさしさは、彼を余計苦しめるだけだと思う。
実際私は、ハンパなやさしさに苦しめられた。
冷酷が最大の優しさになるときも、きっとあると私は思う。
優しさが最大の残酷になることがあるように。

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年6月  >>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293012345

お気に入り日記の更新

最新のコメント

この日記について

日記内を検索